【テキスト】2年間も弁当を700円で仕入れて700円で販売していたおじさんの話
タイトルの通りです。それは木更津の奥地でおこなわれていました。
約3年前、色々なSEOに関する業務委託を請け負いまくってた時期、思い出すと今でも胸が締め付けられるようなエピソードがある。
本当に悲しい、虚しい話だ。
約1年間ほど、SEOコンサルの仕事で木更津に週1で通っていた。
会社へのアクセスは最悪で、そもそも千葉県の外れの方にある木更津なのがヤバいが、さらに最寄り駅から10分くらいバスに乗らなきゃいけないという大ハズレの立地だった。
毎週火曜の朝9時までに木更津の奥地みたいなところに行かなきゃいけない苦痛と、週1で月15万という報酬を天秤にかけ、色々思いながらも1年間通った。
100人弱くらいの規模の会社で、年齢層は高めだが働いてる人同士の距離は近かった。仕事自体は簡単だし、周りもいい人たちだったのでアクセス以外は問題なかった。
一つ問題点を挙げるなら、ランチの選択肢がミニストップのみになることだった。
歩いて5分くらいのところにミニストップがあって、それ以外は何もなかった。誇張してるわけじゃなく、マジで何もない。住宅と公園しかない。ウーバーイーツや出前館も当然のように区域外だ。
寿司屋と蕎麦屋の出前を取ろうと思えば取れるが、とっている人がいないのでやめた。週1しか来ないのに目立ちたくはない。一応近くに焼肉屋としょぼい居酒屋はあるがランチ営業などしていなかった。なんなんだろうこの町は。どうしてこんなとこで100人も働いているんだろう。
ランチに不満を抱えつつ少し経った頃、連絡用に新しい社内のチャットルームに追加された。その中の1つが、全社向けの雑談部屋みたいなものだった。
覗いてみると日に数回カスみたいな投稿があるだけのものだったが、「木田」というおじさんアイコンの投稿が目立った。雑談部屋の7割が木田さんのアイコンで埋め尽くされるくらい、毎日のように発言していた。そしてその内容は、俺を強く惹きつけた。
「今日は焼肉〇〇で弁当を買って帰ります! 希望者はコメントください」
木田さんは営業部の人間で、営業車で外回りをしている。
ランチは外の飲食店でお弁当を買い、オフィスで食べているみたいだ。
そしてなんとお弁当などを多めに買って、社員に販売しているらしい。
それで儲けているとかでもなく、700円くらいのお弁当をいつも定価で販売していた。
そういう福利厚生みたいなものなのだろうか、俺が入る1年近く前から木田さんは買い出しをやっているみたいだ。
「これだ!!!」と思いすぐに申し込みたかったが、業務委託で週1しか来ていない人間がお願いするのはだいぶ気が引ける。
だが、この木田さんの投稿はほとんど無視されていた。
たまに数件申し込みがあるログは確認したが、1件も申し込みされない、スタンプすら押されないみたいな投稿もよくあった。
大量に注文が入るわけじゃなさそうだし俺の分もいけるんじゃないかと、一応隣の席の役職持ちに確認してみた。
「木田……? ああー……いいんじゃない、ほしいなら」
なんか妙に歯切れの悪い回答が引っかかったが、僕は木田さんの投稿にレスをした。
「お疲れさまです! 自分も1つお願いできますでしょうか。」
木田さんからは、軽快な返信が来た。
「注文ありがとう! カルビとハラミがあるけどどっちがいい?」
やった、焼肉弁当が食える。もうミニストップじゃなくて済む。
「ハラミでお願いします!」
「はーい!12時前には会社戻りますので少々お待ちを〜 800円です」
なんていい人なんだ。これだ。これじゃん。いつもミニストップになるわけのわからないランチから解放された。やった。その時はそう思っていた。
12時ごろに木田さんが僕の席にきて、弁当を渡してくれる。40代くらいの中肉中背の男性だった。
僕は感謝し1000円を手渡す。小銭がたくさん入ったボックスを取り出した木田さんから、お釣りの200円を受け取る。後に店名で一応ググったがテイクアウト弁当は800円で販売していた。
焼肉弁当はうまかった。うれしい。よかった。ログを見る感じ、ほぼ毎日買い出しがおこなわれている。これで解決だ。よかった。よかった。
2ヶ月ほど弁当を頼み続け、さすがに違和感に気づき始めていた。良いわけがないのだ。