【テキスト】完了しないってわかってる工事を通した日

ビルに配線設備(ラック)がないということは、ビルに穴を開けて電柱から直接店に回線を引くことになる。1-2Fだったらたまに通ることがあるが、「6Fにだけ穴あけさせてくれ!」なんて基本的にビルオーナーが許すわけがなく、さらにそもそも6Fは高さ的に届かない可能性の方が高い。そんな完了しないってわかっている工事が引き起こした話。
マキヤ 2023.06.21
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2014年ごろ、ブラック企業のコールセンターで働いていた。入社4か月でなぜか「新卒で4か月続いてるのか!根性あるな!」と言われ名ばかりの「責任者」に昇格して少し経った。

ある月、新人の女の子が月末の最終日、ギリギリでノルマ達成になる受注をした。

意味不明なノルマが降ってくる会社で新人がノルマ達成。相当レアなことであり、さらにその子は人柄もよく、皆から好かれていたこともあって全員が祝福した。

彼女は受注用紙と呼ばれるお客様のいろんな情報を記入する紙を書き、「これで私、ノルマ達成ですよね!ありがとうございました!」と言って爽やかに帰宅していった。

彼女の上司であるうっかり者の木下くんは受注用紙を見て「……おう! お疲れ!」と言って彼女を帰らせる。木下は同期の男で、社長や偉い人たちとの飲み会の幹事を任されたのに予約などをうっかり忘れ、役員たちを薄利多売半兵衛に連れて行こうとしたという肝の据わった男だ。

彼女の退室を見届けたあと、木下がヒソヒソと話しかけてきた。

「マキヤくん、これの完了率どのくらいだと思いますか」

「あー……」

***

当時の僕らはフ○ッツ光という回線を電話で売っていた。「光回線に切り替えませんか〜」というやつだ。

契約成立した場合、会社にお金が入るのは「フ○ッツ光への切り替え工事が完了したら」になる。

ただ当時の光回線は申し込みから工事まで2ヶ月かかっていた為に本来はすぐに実績に反映されず、それでは従業員のモチベーションが上がらない。なので「工事日さえ決まれば個人・部署の売上実績になる」という制度になっていた。

加えて、工事は様々な理由でキャンセルになるので(近くの電柱に光回線が来てない、大家がNG、ビルに配線設備がない、申し込んだが家族が反対した、昨日の台風で電柱が消滅した。などなど……)なので完了率の目安は80%とされていた。

なので、工事日が決まったその段階で、工事完了時に会社に入る売り上げの80%が営業部の実績として計上される形になっていた。ノルマや実績など、すべてこの数字から算出されていた。工事日は当日か翌日には決まるので、すぐに実績に反映されるというわけだ。

ちなみに完了率80%は切ったら殺されるし、75%を切ったら全社中に晒し上げられて役員に「君は会社を騙して売り上げを計上したようなものだ」「詐欺罪で訴えるぞ」とかマジでわけのわからないことを言われ、ついでに歩合給もカットされるので完了率は僕たちにとってめちゃくちゃ大切な指標だった。

今回は、もう皆さんなんとなく察してる気もするけどこの制度の問題点と、これが引き起こした事件について書いていきます。

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