【1000文字】32歳の人生ゲーム

「人生ゲームってさ、人生なんだよ」
マキヤ 2023.06.30
誰でも

「人生ゲームってさ、人生なんだよ」

薄暗いバーで、森田がグラスを傾けながらよくわからないことを言ってきた。

大学時代の同級生である森田は、いつも妙におしゃれなバーで意味のわからない話をしてくれる。

僕は正直その時間が嫌いではないので、年に1度くらい会っている。それ以上はしんどいという判断での年1だ。

「人生のコマってなに」

「この前、知り合いの新築祝いみたいなのあって、その時久しぶりに人生ゲームをやったんだよ、あの車のコマ」

「ああ、あれ」

「俺の人生みたいだったよ」

「?」

森田はフッと笑った。会ってから一度も俺の目を見ていない。

「結婚して子供何人もできてさ、ピンがたくさん刺さって、でかい家買って、幸せにゴールする人もいてさ」

「そういうゲームだからね」

「いや、それはあのゲームの1つの表情でしかない。一方では、ピン1つのまま株券ケチってビリになって、開拓地送りになる俺みたいなのもいたんだよ」

「あのゲームで株券ケチる人いるんだ」

「サラリーマンを選んだらお金が全然貯まらなくて」

「あのゲームでサラリーマンルート進む奴いるんだ」

「みんなはどんどんお金が儲かって。こんな理不尽なゲームがあるのかよって思ったね」

「株券ケチったからじゃないの?」

「同級生は結婚してる奴も増えたし、子供ができた人もいる。人生ゲームで言えばコマは中盤で、もうピンが3つ刺さってるんだよ」

「まあまあ、そうね」

「中川なんか家を買って2人目が産まれる。もう4つだよピンが」

「そうね、その理論でいくと、中川はだいぶ進んでるねコマが」

「俺はどうだ!? まだマッチングアプリで苦戦中なんだぞ!?もう32なのに!ピンは1つのままだ」

「まあまあ、マッチングアプリ頑張ってピン増やしなよ」

「アプリ3つやってて会ったらおごってるからお金もあんまりないしさ!」

「3つも」

「Tinderはそもそもマッチしないし、タップルは30超えたら厳しくなったし、Pairsは最初のメッセージで家事の分担がどうとか聞かれるし!」

「苦戦してるなあ」

「正直ご祝儀代も厳しいよ、めでたいことだけどさ、焦っちゃうし」

「稲田さんも結婚したしねえ」

「みんなが結婚してご祝儀を10000ドルもらう!とか、子供が産まれて10000ドルもらう!とかそういうマスにいるのに!」

「俺だけ!」

「俺だけが!」

「俺だけが! 『マッチアングアプリで苦戦!3000ドル払う』ってマスにいるんだよ!」

ひとしきり笑った後、終電に乗るために解散した。

「アプリで1回会った子に先週LINEしたんだけどまだ既読がつかないんだよね。サブアカでグループに招待して探ってみるしかないかな?」

電車内で日付が変わる、今日も彼のコマは進まないのだろう。

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